女性が着る、かっこいいスーツ。かわいらしさではなく、凛とした佇まいをまとうための一着を、オーダーで仕立てる職人がいます。
「令和の虎」900人目の志願者、金子美緒さんです。
番組では希望額を超える出資を獲得し、売上の3%を継続して虎に返すという強気のリターン設定でも注目を集めました。
しかし、金子さんが出演を決断するまでには1〜2年の迷いがあったといいます。
その迷いをどう越えたのか。本番直前の面談で何が変わったのか。そして放送後、何を手にしたのか。
出演の裏側と、これからについて話を伺いました。
目次
- 1. 背が高く中性的な自分を、肯定してくれたのがスーツだった
- 2. 目指すのは、宝塚の男役のような凛とした装い
- 3. 志願のきっかけ
- 4. 最後の一歩を押したのは、運営からの一本の連絡
- 5. 谷本社長の事前面談で変わった、虎への向き合い方
- 6. 模擬の虎で準備した「数字の根拠」
- 7. 一番迷った「多様性とわがままの違いは?」
- 8. 売上3%継続に込めた“恩返し”
- 9. 新規よりも、既存のつながりからの注文
- 10. 視聴者から届いた一通の連絡
- 11. 虎との関係は“納品の場”で深まる
- 12. 場所に縛られず、共感してくれる人へ届けたい
- 13. 年内の課題は「まだ知らない人」へのアプローチ
- 14. ALLが「自信」に変わった
背が高く中性的な自分を、肯定してくれたのがスーツだった
金子さんがスーツに惹かれた原点は、自身のコンプレックスにあります。
金子さんは中高生のころから背が高く、顔立ちも中性的でした。「かわいい女子」とは反対側にいる自分に、ずっと引け目を感じていたそうです。
転機は大学時代。スーツを着る機会が増えると、周囲から褒められることが多くなりました。
「私がコンプレックスに感じてたものが、武器に変えられるのがスーツなんだなって気づいたんです」
もともとネクタイを締めたスタイルが好きだった金子さん。しかし、女性がネクタイを締める感覚を理解してくれるオーダースーツ店は、なかなか見つかりませんでした。
「じゃあ、自分でオーダースーツ屋さんとして作ることができれば、自分の理想としている世界観も作れるし、自分と同じように女性・男性という枠にとらわれずに自己表現を楽しみたい人を助けてあげられるかなと思って」
こうして金子さんは、オーダースーツの世界に飛び込みました。
目指すのは、宝塚の男役のような凛とした装い

金子さんが仕立てるのは、フェミニンなスーツではなく、メンズライクなスーツです。理想を尋ねると、まず気持ちの面について語ってくれました。
「自分のスーツを着ることによって、凛とした雰囲気をまとえたり、心としても背筋が伸びたり。女性の方でもそういう気持ちを持てるっていうのがありますね」
見た目の面でも、従来のレディーススーツとは考え方が大きく異なります。
一般的なレディーススーツはジャケットの着丈が短く、体のラインが出やすいものが当たり前とされてきました。
金子さんが目指すのは、もっと構築的で、かわいいよりもかっこいいクラシックな装い。宝塚の男役のような空気感をまとえる一着だといいます。
その違いを生むのが型紙です。レディースのスーツは型紙の枚数が多く、体に沿った柔らかいシルエットになります。
一方、Suiのスーツはメンズの型紙をベースにしており、形としては硬めの雰囲気に仕上がるのが特徴で、装飾や色使いで、女性の顔立ちに合う柔らかさを加えていきます。
「ここは正直、センス的な部分がちょっと強いかなと思ってます」
お客様は男女で分けておらず、メインは「クラシックに装いたい人」。そのうえで、かっこいいスタイルに憧れる女性が相対的に多く、年齢層は30〜40代が中心だそうです。
志願のきっかけ
志願の目的は、認知拡大と資金調達の2つ。もともと融資による資金調達を考えていたところ、以前から耳にしていた令和の虎なら、その2つを同時に叶えられると考えたそうです。
融資を受けて一人で事業を広げる道もありましたが、それでも虎を選んだ理由を、金子さんはこう話します。
「影響力がある方と一緒に拡大できたほうが面白そうだなと思ったんです。一人でやってると仲間が少ないので、心強さもあって」
最後の一歩を押したのは、運営からの一本の連絡
ただ、出演を決めるまでの道のりは短くありませんでした。迷っていた1〜2年のあいだ、金子さんは所属する経営者団体での取り組みや信頼関係づくりなど、目の前でできることを一つずつ積み重ねていたそうです。
その間に出会ったのが、令和の虎に出演した志願者たち。3人ほどに会い、全員が「出たほうがいい」と口をそろえた。出資がゼロに終わった人でさえ、「出てよかった」と話していたといいます。
さらに、運営との面談や、志願書のブラッシュアップ会にも参加しました。それでも最後の一歩が踏み出せず、気持ちはまた下火になっていきます。
そんなとき、運営から連絡が届きました。「出る・出ないは強要しないので、ざっくばらんに現状を話しませんか」という内容でした。
「自分がちょっと切ろうとしても、これだけ縁がつながってるんだったら、これは出たほうがいいんだろうなと思って」
非科学的かもしれないけれど、そういうものを信じてもいいんだと思えた。金子さんは笑いながら、そう振り返ります。
谷本社長の事前面談で変わった、虎への向き合い方

本番のおよそ3日前、金子さんは谷本社長との事前面談に臨みました。
時間は30分と限られていましたが、谷本社長は必要なポイントに絞って踏み込んだ質問を重ね、事業内容のブラッシュアップに加えて「虎との向き合い方」や「自分の見せ方」についてアドバイスをくれたそうです。
この面談で、金子さんの中で大きな変化が起きました。
「私、戦うっていう気持ちがすごく強かったんです。虎と戦って勝たなきゃ、みたいな。でも出資してくださる方って、結局は味方になるわけなので、この人の味方になりたいって思わせたいと思いました。戦う相手と見てたら、そりゃ応援してもらえないよなって」
面談がなかったら、ALLを取れていたかは微妙だった――金子さんはそう言い切ります。もちろん、本番で何かを偽ったわけではありません。
「全部、自分のリアルな側面なんです。ただ、その側面をどう見せるかで結果って変わるんだなと思って。そこを谷本社長がうまく導いてくれた、というのが正しいですね」
番組で、なでしこリーグのサッカー選手をモデルとして同伴したり、既製品のスーツと比較して見せたりしたのも、この面談でのアドバイスがきっかけでした。
令和の虎はエンタメであり、メディアでもあります。ただ話すよりも、現物や実際に着ている人がいるほうが番組として動きが出て、説得力にもつながる。
そう助言を受け、もともと一人で出るつもりだった金子さんは急きょモデルを依頼し、比較用の既製品も買いに走りました。
「自分にない視点だったので、フォローしていただいたのはめちゃくちゃありがたかったです」
模擬の虎で準備した「数字の根拠」
番組では、虎の質問に対する受け答えが全員から高く評価されました。その裏には、入念な準備がありました。
金子さんは出演前、知り合いの経営者3〜4人に模擬面接をお願いし、どこが気になるのかを徹底的に突っ込んで聞いてもらったそうです。そこで返ってきたのが、数字やデータの根拠があると安心する、という意見でした。
研修講師としての活動で、スラックスを選べる学校の割合などのデータは以前から調べていました。
そこにどんな数字があればいいかを聞き取って調べ直し、データが存在しないものは推論で補ったそうです。
番組で見せた落ち着いた受け答えは、こうした準備の積み重ねから生まれたものだったのです。
一番迷った「多様性とわがままの違いは?」

番組の中で最も心に残っている言葉を尋ねると、竹内社長からの問いが返ってきました。
「一番聞かれて困ったというか、迷ったのは、竹内社長の『多様性とわがままの違いは?』ですね。あれは想定外でした」
竹内社長とのやり取りは、番組の大きな見どころの一つでもありました。ほかの虎が和やかな雰囲気で会話を進める中、竹内社長からは踏み込んだ質問が投げかけられました。
それでも金子さんは、竹内社長の意図はよく伝わり、悪意はまったく感じなかったと話します。むしろ、令和の虎出演には自分なりの覚悟があったそうです。
「私、八方美人なところがすごく強かったので。尖らせたら、刺さる人には刺さるけど、刺さらない人には刺さらないのが当たり前だよねっていうことを、自分自身が体感したほうがいいなって思ってたんです」
売上3%継続に込めた“恩返し”
金子さんが設定したリターンは、売上の3%を継続して返すというものです。一度きりではない条件に、虎からも好意的な声が上がりました。
「私はノーリスクで、虎の方たちにリスクを背負って出資していただくのであれば、自分の儲けが優先じゃないなと思って。まずはちゃんと恩返しをするっていうのを中心に置かないと、出資してもらう価値ってないな、と思ったんです」
もちろん、1回きりの関係で終わらせたくない、深くつながりたいという思いもあります。そのうえで、出資を受けたからにはしっかり恩を返す。それが金子さんのスタンスです。
新規よりも、既存のつながりからの注文

希望額を超える結果が決まった瞬間は、素直な嬉しさと、自分に大きな負荷をかけたリターンへのプレッシャーが半々だったといいます。
「もう全国放送で言っちゃってるんで。サボれない、一番いいきっかけになったなと思います」
放送後の反響については、率直に語ってくれました。
番組を見て新たにオーダーを依頼してくる人は、正直あまり多くないそうですが、一方で、過去にスーツを作ってくれた人や、いつか作ろうと考えていた知人が「見たよ」と連絡をくれ、リピートや新規の購入につながりました。
視聴者から届いた一通の連絡
出演後の反響で印象的だったのが、ある視聴者からの連絡です。竹内社長の「多様性とわがままの違いは?」という問いへの金子さんの答えに共感したという女性でした。
その女性も、女性だけれどかっこよくスーツを着こなしたいという感覚の持ち主です。しかし組織の中では、それをなかなか受け入れてもらえない現実がありました。
自分の好きな格好をしたい気持ちと、組織に合わせなければならない気持ちの間で悩んでいたといいます。
「自己表現を大切にしてもいいし、相手への配慮があるかどうかも大事だよね、という話をしたんです。そうした考え方に触れて、『すごく心が楽になった』と言ってくれました」
虎との関係は“納品の場”で深まる

出演後、虎とのつながりも着実に深まっています。
リターンにオーダースーツを含めていたこともあり、ちょうど納品のタイミングで、それぞれの虎と直接会って話す機会があったそうです。
虎が来店してスーツを作る様子をコンテンツとして撮ってもらえれば、それ自体がPRになります。金子さんはそうした展開もリターンの一つとして想定していました。
実際に、今後の収録やイベントで金子さんのスーツを着用する予定の虎もいるといいます。
広告としての契約ではなく、納品時期を相談する中で、自然とそうした話になったそうです。
「虎の方は本当に気にかけてくださっているし、すごく皆さんいい方です」
▼実際にオーダースーツを作った後追い動画はこちら
場所に縛られず、共感してくれる人へ届けたい
出資金は、ブランドの売上をつくるための土台として、新しいホームページの制作や広告・PRなどに活用しています。ホームページの制作も、資金が入ったからこそ踏み出せたことの一つです。
今後の展開について尋ねると、金子さんは店舗ビジネスの常識にとらわれない視点を語ってくれました。
「オーダースーツみたいな店舗ビジネスって、店舗があるエリアだけっていうのが今までは常識だったと思うんです。でもそうじゃなくて、私の思いに共感してくださる方とか、私が届けたい提供価値にニーズがある方であれば、全国だろうと世界だろうと届けたいですね」
年内の課題は「まだ知らない人」へのアプローチ
番組では、虎から経営者としての視点や事業拡大の戦略について指摘を受けました。金子さん自身も、「そこはもう少し練ってから臨むべきだった」と振り返ります。
放送後は、コーディネートやLGBTQ+に関するセミナーなどを積極的に展開しています。一方で、課題も見えてきました。
「自分をまったく知らない人に対しての施策はまだあんまり打てていなくて。どちらかというと、私のことをすでに知ってくれている人に対しての施策が中心になってしまっているので。この年内は、そこをじっくり考える必要がある状況です」
ALLが「自信」に変わった

最後に、出演前と比べて経営者としてどんな変化があったかを尋ねました。
「一つの成功体験なので、自分の自信につながったのが大きいです。提案する人間が魅力的じゃないと、どんなに物が良くても買ってもらえないことって、正直あると思うんです。その点、令和の虎でALLをもらえたっていうのが箔になりましたし、自分でも、自分で選んで挑戦して結果を出したんだ、っていう自信を持ってご提案できるようになりました」
令和の虎への挑戦は、お客様にとって「この人と話してみたい」と思うきっかけにもなっています。
コンプレックスを武器に変えてくれたスーツと同じように、令和の虎での挑戦もまた、金子さん自身の背筋を伸ばす一着になったのかもしれません。
この記事を書いた人
九条辰季
「自分らしく生きる」をモットーに、Webマーケティング記事や広告・デザインまで幅広く執筆する多趣味、雑食系ライターです。 自身の経験をもとに、みなさんが彩りあるキャリアプランを描くお手伝いができればと思います!





























