【取材】ALLをもらったのに「出なきゃよかった」――令和の虎の舞台裏で、碇ほの加さんが見たもの

九条辰季

「令和の虎」に出演し、1人の虎から出資(ALL)を勝ち取った経営者――そう聞くと、華々しいサクセスストーリーを想像するかもしれません。しかし、今回取材した碇ほの加さんから聞かれたのは、意外にも率直な言葉でした。

「本当になんか収録終わって…あれはもう自分にとっての武勇伝的な感じで思ってるんで」

碇さんは航空整備士として勤めたのち、兵庫県の海辺の街でゲストハウス「Asterisk+(アスタリスク)」を開業しました。

さらに、保育士向けの「お試し勤務」サービスを新規事業として立ち上げ、その資金調達と認知度向上を目的に「令和の虎」への出演を決めました。

航空整備士から、海辺のゲストハウス経営者へ

引用:令和の虎CHANNEL

碇さんはもともと、航空整備士として勤務していました。そのなかで、「これからは自分で事業をやっていきたい」という思いが芽生え、そこから物件探しを始めたといいます。

「近くの不動産屋さんに電話かけたら『ここがありますよ』と教えていただいて。海が目の前で景色もすごく良かったので、すぐに決めました」

そうして生まれたのが、海を目の前にしたゲストハウス「Asterisk+」です。部屋の中にテントを設置するという、アウトドアライクなコンセプトを掲げています。

「普通のビジネスだったら(客層を)絞らなきゃいけないのかもしれないんですけど、家族が来たり、海外の人も来られたりとか。もちろん一人旅だったりカップルだったり、学生とかもう様々です」

開業から2年で事業を黒字化。その後、碇さんは次なる挑戦として、保育士支援事業にも乗り出します。

なぜ「保育士のお試し勤務」だったのか

碇さんが手がける新規事業は、保育士と保育園のマッチングにおける「お試し勤務」サービスです。就職前に一定期間、実際の現場を体験できる仕組みを提供しています。

介護業界には多くの企業が参入している一方、保育業界は「子どもへの影響」という観点から参入のハードルが高く、お試し勤務のような仕組みは多くありません。だからこそ、碇さんはあえてこの領域を選びました。

「保育業界で良かったなと思います。どっちかっていうと、業界にイノベーションを起こしたいみたいな、そういう感じです」

「令和の虎」に応募した理由

引用:令和の虎CHANNEL

「令和の虎」への応募理由は明快でした。事業を広げるには、保育士と保育園、その両方に認知してもらう必要があります。

しかし、一人で回している碇さんにとって、それを同時に成し遂げるのは簡単なことではありませんでした。

「保育士も集めなきゃいけないし、保育園も集めなきゃいけない。両方集めなきゃいけなかったら、やっぱり自分一人だけじゃ難しいなと」

資金調達そのものよりも、まずは認知度を上げることこそが最大の目的だったといいます。

「令和の虎をずっと見ていたので、自分の気持ちが整ったら出ようかな、と思っていました」

厳しい追及の末に、まさかのALL。その瞬間に何を思ったのか

引用:令和の虎CHANNEL

「緊張して頭真っ白になりすぎて、自分がしゃべれてたかどうかもわからん…ってレベルでした(笑)」

収録本番の記憶について尋ねると、碇さんは率直にこう振り返ってくれました。番組内では、激しい追及が飛んでいたため、無理もありません。

事業そのものだけでなく、女性経営者という立場やお試し勤務の制度設計について、鋭い質問が飛び交いました。

しかし、それほどの緊張状態にありながらも、碇さんの目にはどこか冷静な部分もありました。番組の性質上、出演者への追及や発言が「エンタメとして映えるもの」になっているケースも少なくありません。

碇さんは、番組の性質上、こうした発言も想定していたと振り返ります。

「女性男性問題はバズるために誰かが言うだろうな、っていうことは想定していて。『あ、言ったわー』って思いましたね」

そして訪れた、まさかの瞬間。特に厳しい発言をしていた河原社長から、満額出資(ALL)の意思表示があったのです。

「あれはびっくりしましたね。スタジオ内は何も起きなさそうな雰囲気だったんで。一番やる気なさそうな人が出しましたから」

放送後に見えた、もうひとつの現実

番組放送後の反響について尋ねると、碇さんから返ってきたのは意外な答えでした。

「反響ありましたかって言われると、そこまで反響なかったっていうか…なんでまあ、別にいいかなみたいな」

放送後、宿泊客から「見たよ!」という声もあったそうです。ただ、事業の方は保育士からの問い合わせが増えたわけでもなく、宿泊業への影響もほとんどなかったそうです。

「全くないですね。なんでもう、自分の中ではなかったことになってます」

ここで、放送内で指摘された、労働法上の取り扱いをめぐるやり取りについても触れておきたいと思います。

碇さんによれば、お試し勤務の仕組みについては事前に労働局へ確認を取っていたとのことですが、収録の場では法律面への懸念が繰り返し話題に上ったといいます。

あくまで碇さん自身の受け止め方として、当時は「反論しても仕方がない」と感じ、それ以上のやり取りを控えたそうです。この点について碇さんは「結果としてマイナスプロモーション的な部分があったかもしれない」と振り返っています。

出資後の資金調達についても、現状は必ずしも順調とは言えないようです。契約の手続きに時間がかかっていることもあり、碇さんの中では「事業は基本的に自分たちの力で進めていく」という意識が強まっているといいます。

出演を経て見つけた「スイッチ」

一方で、「令和の虎」への出演がもたらしたポジティブな変化もありました。それは、場に応じて自分を切り替える術を身につけたことです。

出演前、知人から「お調子者で行った方が面白くなる」とアドバイスを受けていたものの、当時はその意味をつかめず、真面目な姿勢で収録に臨みました。ところが放送後、しばらく経ってから、その言葉の意味を実感するようになったそうです。

「プレゼンの場でスイッチを見つけたみたいな。自分を切り替える、みんなが面白くなるような自分を演じることができるようになるスイッチを見つけたみたいな感じですね」

一方で、成功を収めた経営者たちの言動に触れる中で、碇さん自身の価値観がより明確になった側面もあるようです。

「そんなにこう、私には刺さらない内容だったので。自分が思う目標は全く変わりませんね。自分がどう自分らしく生きていけるか、だと思います」

これから――保育士から、他業種へ

今後3〜5年の展望を尋ねると、碇さんはまず足元の「保育士を集めること」に注力する姿勢を見せつつ、その先の構想も語ってくれました。

現在、兵庫・岡山・大阪・広島・愛知の5拠点で展開しているサービスは、今後横浜方面への拡大も予定しているそうです。さらに視野に入れているのが、保育士に限らない他業種への横展開です。

「保育業界だけじゃなくて、介護だったり看護、あとは理学療法だったり。そういう専門分野に横展開していきたいなっていうのは考えています」

そして、ゲストハウス事業についても、決して片手間ではありません。

「私の目標は、世界中にホテルを作ることなんです。日本人が気軽に海外に行けるような施設を作りたいな」

すでに黒字化を果たした「Asterisk+」を足がかりに、新たな宿の話も進んでいるといいます。保育士事業とゲストハウス事業といった畑の違う二つの軸を、碇さんは同時に走らせています。

「やり方は一通りじゃない」

最後に、「令和の虎」出演を経て見えてきたものを尋ねると、碇さんはこう答えてくれました。

「やり方って一通りじゃないじゃん、と思っていて。経営者的にもそうやって、ノリと勢いみたいな感じでやってる人で成功してる人もいるし。虎の方々の言ってることが全て正しいわけではないよね、みたいなところがあった」

華やかに見える番組の裏側で、緊張に頭が真っ白になりながらも掴んだ「自分を演じるスイッチ」。そして、放送後の静かな現実と向き合いながらも揺るがなかった、「お金より生き様」という軸。

碇さんの言葉からは、一つの番組出演では収まりきらない、等身大の経営者の姿が浮かび上がってきました。

▼碇ほの加さんの事業関連サイト・SNSはこちら!
保育園と保育士のマッチング「お試し勤務」公式サイト
イベント「保育士、職業病すぎる展」Instagramアカウント
ゲストハウス「Asterisk+」公式サイト
ゲストハウス「Asterisk+」Instagramアカウント

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この記事を書いた人

九条辰季

「自分らしく生きる」をモットーに、Webマーケティング記事や広告・デザインまで幅広く執筆する多趣味、雑食系ライターです。 自身の経験をもとに、みなさんが彩りあるキャリアプランを描くお手伝いができればと思います!