【米国スタートアップ列伝 Vol.5】史上最大のECプラットフォーム「Amazon」

前田健二

年間売上高7169億ドル(約113兆2702億円)、営業利益800億ドル(約12兆6400億円)、期末現金および現金相当資産保有残高868億ドル(約13兆7144億円)。昨年2025年度に過去最高の数字を上げたAmazonの業績です。1994年に平凡なオンライン書店として静かにビジネスをスタートさせたAmazonは、どのような変遷を経て成長し、現在の姿に到達したのでしょうか。Amazonの強さの秘訣などを含めて、その歴史をまとめてみました。

1994年にオンライン書店としてスタートしたAmazon

Amazonは、1994年7月5日にジェフリー・プレストン・ベゾス(Jeffrey Preston Bezos)が立ち上げた会社です。ベゾスは1964年1月にニューメキシコ州アルバカーキで生まれ、テキサス州ヒューストンとフロリダ州マイアミで成長しました。1986年に名門プリンストン大学工学部を卒業、ウォールストリートの投資銀行D.E.ショー・アンド・カンパニーへ入社します。

若きベゾスは入社後ただちに頭角を現し、1990年に同社のシニアバイスプレジデントに就任します。D.E.ショー・アンド・カンパニー勤務時代のベゾスは、業務として当時勃興期を迎えていたインターネットへの投資について研究していたとされています。やがてインターネットの驚異的な成長の始まりを目の当たりし、起業家魂に火を付けられたベゾスは、自ら何らかのインターネットビジネスを立ち上げることを決意します。

インターネット上でネット書店を立ち上げるというアイデアは、ベゾスが発案した「後悔最小化フレームワーク」(Regret minimization framework)から生まれました。仕事をリタイアする齢になって「やらなかったこと」の後悔を最小化するという思考法は、想定しうるリスクをヘッジしつつ着実に成功をおさめることを目指したもので、ベゾスはその具体策としてネット書店の立ち上げを意思決定したとされています。

ベゾスは、台頭するネットビジネスの中で既存のリアルビジネスを凌駕する可能性が最も高いカテゴリーは何であるか考えました。ベゾスはCD、コンピューターソフト、オフィスサプライなどを候補に挙げ、書籍のタイトル数が他のカテゴリーよりも圧倒的に多いことや、書籍が標準化された販売アイテムであることなどを理由に、「インターネット上に地球最大の書店を構築する」ことを目標に掲げてAmazonを立ち上げたのです。

ベゾスが妻とともにワシントン州ベルビューの自宅借家のガレージで立ち上げたネットショップは、当初「カダブラ」(Cadabra)という社名でした。しかし、「カダブラ」の響きが検視用死体という意味の「カダバー」(Cadaver)と酷似していることなどを理由に立ち上げから数か月で社名をAmazonに変更しています。世界最大の河川である南米のアマゾン川のような世界一を目指す社名となったのです。

立ち上げ当初から旺盛な拡大志向

ベゾスがAmazonを立ち上げた際、Amazonに最初に投資したのはベゾスの両親で、その額24万5573ドル(当時のレートで約2464万円)でした。親に出資してもらったシードマネーを使い、ベゾスは1995年7月16日に正式にネット書店Amazonをスタートさせます。Amazonは立ち上げ当初からネットユーザーの心を掴み、立ち上げから最初の二か月間で週当たり2万ドル(約200万円)の売上を獲得します。

売上の拡大はその後も続き、会社設立からわずか3年後の1997年5月、AmazonはNASDAQへのIPO(株式上場)を果たします。上場当時のAmazonは年商わずか1600万ドル(約16億円)、時価総額4億3800万ドル(約438億円)に過ぎない典型的なスタートアップ企業といった様相を呈していました。それが30年後の現在では時価総額3兆ドル(約474兆円)の巨大企業へと成長したのですから、未来は実に予測困難であるとすべきでしょう。

IPOにより5400万ドル(約54億円)のフレッシュマネーを手に入れたベゾスは、それを再投資して規模の拡大を優先する戦略を徹底します。IPO前後から一定期間営業収支が赤字続きだったAmazonは、投資家へのリターンをおろそかにしているといった批判を浴びたりしましたが、Amazonが名実ともに世界一のECプラットフォームとなった現在、ベゾスの経営判断は決して間違いではなかったことを証明しています。

書籍以外のカテゴリーへ拡大

当初はネット書店として立ち上がったAmazonですが、徐々に書籍以外のカテゴリーの販売を開始します。1998年にCDとDVDの販売を開始したのを皮切りに、1999年までに玩具、ビデオゲーム、コンピューターソフト、家電製品、DIY・住宅関連製品などのカテゴリーへ拡大してゆきます。1999年にベゾスは正式に「何でも売る店」(Everything store)のコンセプトを表明し、実際にあらゆるカテゴリーの取り扱いを開始しています。

ベゾスが「何でも売る店」のコンセプトを思い付いたのは、ベゾスが大手スーパーマーケットチェーンのウォルマートの経営手法を学んだ結果だとされています。ウォルマートは、独自に構築した仕入れシステムによる大量仕入れと大型店舗による大量陳列などにより「エブリデイ・ロープライス」を実現しました。ベゾスは、インターネット空間ではウォルマート以上に大規模な仕入れシステムの構築と大量陳列が可能だと判断し、実行したのです。

Amazonマーケットプレースの開始

2000年に入ると、Amazonの成長を牽引する強力なドライバーとなるAmazonマーケットプレースが立ち上がります。Amazonマーケットプレースは、Amazon以外のサードパーティーの販売者がAmazonのプラットフォームを利用して商品を販売する仕組みです。販売者は商品をAmazonで販売し、Amazonに手数料を支払うのですが、販売者はAmazonという巨大なプラットフォームを利用でき、Amazonには販売機会の拡大をもたらすというWin Winの結果になりました。

Amazonマーケットプレースはさらに、Amazonの在庫を事実上「無限大」にする結果ももたらしました。それまでのAmazonのビジネスでは販売者はAmazonだけであり、販売できる商品はAmazonの倉庫に物理的に存在しているものに限られていました。ところが、Amazonマーケットプレースの登場によりサードパーティーの販売者の在庫も利用できるようになり、結果的にAmazonの在庫規模を劇的に増加させたのです。

Amazonマーケットプレースの開始により、Amazonは単なる「オンラインリテーラー」から「巨大ECプラットフォーム」へと変貌し、現在のAmazonへ繋がる結果となったのです。Amazonマーケットプレースは、Amazonのビジネスの根幹を構成する極めて重要な要素となっています。

Amazonプライムの登場

2005年には、Amazonのビジネスを支える別の重要な新サービスが登場します。Amazonプライムは当初、一定のフィーを支払ったユーザーに対して注文から最長二日以内での配達を約束する「プレミアム配達オプション」としてスタートしました。国土が広いアメリカでは、注文から最長二日以内での配達はコスト高になり、Amazonに大きな経済的負担を強いると予想されていました。しかし、最短当日に配達されるAmazonプライムには利用希望者が急増し、結果的にAmazonに一定の安定収入をもたらす事業になったのです。

Amazonプライムはその後、動画や音楽などのストリーミングサービス、無料ゲーム、写真ストレージなどのクラウドサービスなども利用できるようになり、単なる「プレミアム配達オプション」から本格的な「サブスクリプションサービス」へと進化します。Amazonプライムは売上的に大きく貢献しており、直近2025年度では500億ドル(約7兆9000億円)もの売上をもたらしています。Amazonプライムのユーザー数も増加し続け、直近では全世界で2億5000万人に達しています。

AWSの登場

Amazonプライムと並ぶAmazonの重要な売上ジェネレーターとして、AWSを外すことはできません。Amazon Web Services(AWS)は、今日のAmazonのビジネスを支える基幹事業のひとつであり、最も重要な戦略事業基盤です。

Amazonが正式にサービスを開始した1995年より、ベゾスの頭を常に悩まし続ける問題がありました。Amazonのビジネスが順調に成長してゆく中、Amazonのビジネスを支えるインフラの能力が追い付かず、始終何らかの対応を余儀なくされていたのです。

具体的には、販売アイテムのデータを格納するストレージ、ユーザーの検索ニーズに対応するデータベースシステム、スムーズで堅牢な運用が必須のネットワークインフラといった問題です。Amazonは当初、高価なサンマイクロシステムズのサーバーをベースに一連のシステムを構築していましたが、それをオープンソースのLinuxベースのシステムに移行し、独自に開発と改良を重ねてゆきました。やがてAmazonという世界最大規模のECプラットフォームを支えるインフラとして独自に進化を遂げたシステムを、第三者へクラウドベースで提供しようというアイデアが生まれることになったのです。

2006年3月14日、Amazonの社内インフラを外部へ提供するAWSがサービスを開始します。データストレージをクラウドベースで提供する「Amazon Simple Storage Service」からAWSの歴史がスタートし、その後Amazon Elastic Compute Cloud、Amazon Relational Database Serviceなどを相次いでリリースし、徐々にサービスのラインアップを拡げてゆきます。AWSの機能は拡張を続け、今日時点ではマシンラーニングや量子コンピューティングなどを含む240以上のサービスを提供するまでに成長しています。

リアル小売業にも進出

ネットでの成長著しいAmazonですが、実店舗などのリアル小売業にも進出しています。2017年6月16日、Amazonは高級スーパーマーケットチェーンのホールフーズ・マーケットを137億ドル(当時のレートで約1兆5344億円)で買収しています。

ホールフーズの買収によりAmazonは全米460の実店舗を手に入れたことに加え、生鮮食料品販売事業Amazonフレッシュ向けの販売・配達拠点としても活用できるようになりました。また、ホールフーズの店舗内にAmazonロッカーを設置するなどネットとリアル店舗との融合を進めるなど、実験的なプロジェクトも開始しています。スーパーマーケットが扱う生鮮食料品はAmazonを含むEC事業者が苦手とするカテゴリーであるとされていますが、生鮮食料品の物流拠点としてホールフーズの460店舗を有効活用できるのか、多くの関係者が注目しています。

ホールフーズ・マーケットの買収とは別に、Amazonは2018年1月に無人店舗Amazon Goをシアトルで開店しています。Amazonによる本格的な無人店舗として話題を呼んだAmazon Goは、利用者が入店から退店まで人手を介することなくショッピングできる環境を提供していました。Amazon Goはその後、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコなどにも進出し、一時は成長軌道に乗ったかのように見えました。しかし、Amazon Goの運営に想定以上のコストがかかることなどから赤字経営が続き、Amazon Goは2026年1月にほとんどの店舗を閉鎖して事業から事実上撤退しています。

Amazonの強さの理由

今では史上最大のECプラットフォームに成長したAmazonですが、その強さの理由は何でしょうか。一つの理由に集約させることは困難ですが、いくつか挙げてみましょう。

第一に創業者ベゾスの慧眼です。ベゾスは、投資銀行勤務時代からインターネットの可能性を見出し、それに賭けるべくネット書店のアイデアを思いつきました。「80歳になった時に後悔しないか?」を自らに問い続け、アイデアを実現させるべく行動を起こしました。ベゾスが、インターネット以外の別のもので事業を興していたら、Amazonと同様に成功したかはわかりません。

第二に創業当初からベゾスが採っていた「事業拡大戦略」です。ベゾスは、Amazon創設時からIPOを経て成長期に至るまでの間、営業赤字に甘んじても事業拡大のための投資を行ってきました。IPO後も赤字の時代は続き、一部の投資家から「株主軽視」であるとの批判を受けたりしましたが、戦略を改めることはありませんでした。事業の立ち上げフェーズにおいては当座の利益確保よりも事業規模や市場シェアの拡大を優先すべき場合があることを、ベゾスは信じていたに違いありません。

第三に絶えざるイノベーションです。Amazonは、設立当初は「ネット書店」からスタートし、書籍以外のカテゴリーの販売へ拡大しました。やがてAmazonマーケットプレースをスタートさせる一方、自らのシステムを外部へ販売するAWSを立ち上げ、事業の幅をさらに広げています。単に事業を継続させるだけでなく、要所ごとに何らかのイノベーションを加え、次元を超えた進化を果たしているのです。

まとめ:試行錯誤と修正力こそAmazonの優性遺伝子

1994年にワシントン州ベルビューの借家ガレージからスタートしたベゾスの「ネット書店」は、30年の歴史を経て時価総額3兆ドル(約474兆円)の、アメリカを代表する巨大メガテック企業に成長しました。Amazonのこれまでの歴史は決して常勝の歴史などではなく、多くの失敗の歴史でもありました。しかし、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返し、顧客や市場のニーズに合わせて事業を修正する修正力が、Amazonをここまで成長させてきたのです。

Amazonの歴史は今後も続きますが、試行錯誤と修正力という強固な優性遺伝子が受け継がれてゆくのは間違いないでしょう。

《参考サイト》
The History of Amazon and its Rise to Success
Britannica Money, Jeff Bezos
The Regret Minimization Framework: How Jeff Bezos Made Decisions
Amazon Corporate Timeline
Amazon Prime Subscribers Statistics 2026 and Beyond
AWS の起源

\この記事をシェアする/

この記事を書いた人

前田健二

大学卒業後渡米し、ロサンゼルスで飲食ビジネスを立ち上げる。帰国後複数の企業の起業や経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立。新規事業立上げ、マーケティング、アメリカ市場進出のコンサルティングを行っている。アメリカのビジネス事情に詳しく、ライターとしてアメリカ発のニュービジネスに関する記事などを執筆、各種ウェブメディアに寄稿している。 米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。